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オールズバーグという絵本作家にとって、「夢」というモチーフは魅力的なものであるらしい。彼は作品の中でくり返しこのモチーフを描き続けており、映画原作となった『ジュマンジ』(ほるぷ出版)なども、そのバリエーションのひとつと考えることができる。規格どおりに組み立てられた融通のきかない現実空間と、それを揺らし、広がりを持った世界の捉えかたへと導くための「夢」、という二重構造はオールズバーグの魅力だが、この『ベンの見た夢』も、まさにそうした彼の持ち味の中から生み出された一冊であるといってよい。地理の教科書を読みながら眠ってしまったベンは、家が大きく傾いたことから目を覚ます。窓の外に目をやれば、見渡すかぎり水ばかりで、胸元まで水没した自由の女神が建っている。ページをめくっていくたびに、同じように水に没したロンドン塔、エッフェル塔、ピサの斜塔と、次々に世界の名所旧跡が通り過ぎていく。家は東へ東へと流されているようだ。やがて万里の長城を経て、今度こそベンはほんとうに目を覚ますのだが、迎えにきた少女からそっくり同じ夢を見たことを聞かされる 。そして、二人が夢の中で出会っていたことをベンが照れながら認め、自転車で駆け去るとき、この絵本は一気に広がりを持つのである。(甲木善久) 産経新聞 1996/06/17
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