ベンのトランペット

R・イザドラ/作
谷川俊太郎/訳 あかね書房 1981

           
         
         
         
         
         
         
     
 初めてこれを見た時には……いやあ、驚きましたね〜、ホント、のけぞっちゃった。
 だってさ、ジャズを、それもアメリカの黒人のジャズを、絵に描いてあるんだよ。
 私、そんなことができるなんて、夢にも思ったことなかったから、本当にびっくりしました。
 全ページ、黒と白と灰色と……それから銀、これがきいてんのよね。
 ストーリーもいいんです。ベン、という黒人の男の子、一〇才くらいかなァ……近所に、ジグザグジャズクラブ、というのがあって、そこのトランペット吹きに憧れてるのね、彼は。
 で、ペットはもちろん持てないから、持って吹く真似をする、一日中……だけど彼の耳にはきこえてるわけよ、自分の吹く音が──。
 でもどこにもイジメっ子はいるわけで、満足しきっているベンにむかってペットなんかないくせに、というヤなやつ、というか現実的なやつ、決して“芸術家”なんぞにはならないやつが出てきます……。でまあ、芸術家は繊細ですから、そのひとことでベンはぺじゃんこになってしまうんですね(やっかいですが、だからやってられる、ともいえます)。
 と、それをみていたジグザグジャズクラブのペット吹きが、ひとこと、声をかける、
 「よう、ぼうず、一緒にやらないか」ってね──。
 くーっ! こいつがさ、カッコいいのよっ!
 ちゃんとした大人ってのは、こういうやつのこというのよね!
 かくしてベンは、ひとことも説明しなくてもなにもかもわかってくれる人たちの仲間入りをして幸福になるの。本のなかからマジでトランペットの音が響いてきます。(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化佐藤佳世