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本書は、ビアトリクス・ポターの生涯を丹念な調査でもって著したものである。ポターの誕生に始まる第1章から、最近の湖水地方の様子を描いた第7章まで、300ページ以上にわたってポターの一生が詳細に記されている。本書を読めば、絵本作家として知られているポターが、すぐれた風景画家・植物画家、そして羊の飼育家であったということがよくわかる。学生時代、推理作家にあこがれたという著者が、まるでジグソーパズルの小片を集めるように資料をまとめあげた労作なのである。 ページを繰っていて気がついたのだが、本文のすべての見開きに、写真やイラストなどの図版が掲載されている。数多くの資料を目で見ることによって、ポター作品の全容がわかる仕組みになっているのだ。このように、多くの資料、とりわけ未発表の写真や水彩画がたくさん収録されているのも、本書の魅力のひとつであろう。 随所に収められているカラー図版が、本当に美しい。たとえば、ポターが9歳のときに描いた虫の水彩画の精密さには驚かされる。ウサギの頭部のスケッチ、コウモリの水彩画なども、まるで図鑑を見るようだ。「ピーター・ラビット」シリーズに見られる確かな筆致は、こうやって培われたのである。 このように、本書は多くの図版を収録した「目で見る伝記」である。その一方で、本文のディテールの細かさには、目を見張るものがある。たとえば、ポターの両親が新婚時代に住んだ家や使用人の名前など、今まで知られていなかった事実が細かく記されているのだ。これまで、ポター伝といえばマーガレット・レインの伝記が定番であった。しかし今後は、新事実・新資料満載の本書が、ポター伝の新たな定番となるに違いない。 ところで、ポターが自分で飼っていた動物をモデルに絵本を描いたことは有名な話だが、こんな興味深いエピソードが掲載されていた。 「ピーター・ラビット」の絵手紙を描いた当時、ポターはピーターと名づけたウサギを飼っていた。ここまでは、たいていのポター研究書に載っているのだが、そのフルネームがピーター・パイパーであった(P.85)というのは、私には初耳であった(ピーター・パイパーとは、早口言葉のマザーグースの登場人物)。さすが、マザーグース好きのポターらしいネーミングである。 何年か前に教えた教科書にポターを扱った課があった。そのときにこの本があったらよかったのに、と思う。そんな、読みごたえのある一冊である。(鳥山淳子) 『英語教育』2001年6月号 |
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