ビターチョコレート

ミリアム・プレスラー

中野京子訳 さ・え・ら書房 1992

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 少女たちの拒食症や過食症はよくマスコミに取りあげられるが、過食症の少女を主人公にした児童文学には初めて出会った。
 太っている十五歳のエーファの悩みは深刻だ。自分に友達がいなくて孤独なのは、すべて太っているせいだと思っている。軽やかに青春を謳歌する同級生を見ながら、エーファはこっそりダイエットを試みるがそのたびに失敗し過食をくりかえす。
 物語は悩むエーファがあるがままの自分を受けいれるまでを、家庭、学校、ボーイフレンドの三つの面を通して描いていく。エーファの家族は、エーファと弟と両親の四人家族。エーファが過食症になったのは、小さい頃悲しいことがあるたびに母親がチョコレートをくれたことが原因であるが、だれもエーファの過食症やそれに対する悩みを知らず、家の食習慣が変わる見込みはない。家でエーファはこっそりダイエットするほかはない。学校でのエーファは、以前仲良しだった友達がほかの子と仲良くなってしまいみじめそのもの。勉強もでき、エーファをしたう転校生のフランツィスカもいるのに全く自信がない。
 ボーイフレンドなんかできっこないと思っていたエーファにボーイフレンドができる。ミヒェルだ。ミヒェルは、進学高校に通いダンスの上手なエーファに魅力を感じる。ダンスパーティーでエーファを侮辱した兄とけんかもする。エーファが自分に自信をもったのは、船員になるために出発したミヒェルがエーファに手紙をくれたときだ。この日、エーファはダイエット食を作ってほしいと母親にたのむ。時を同じくしてクラス編成の問題から、エーファは学校でも自分が必要とされていることを知る。最後、鏡に映った自分のジーンズ姿に「夏の日みたい。自分がそう見えるの。」と笑いかけるエーファのなんと輝いていることか。 ミリアム・プレスラーはドイツの作家だが、エーファの悩みは世界共通である。本書は一九八O年のオルデンブルグ児童図書賞を受賞している。(森恵子)
図書新聞 1992年6月6日