ぼっこ

富安陽子作 瓜南直子絵

偕成社 1998

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 デビュー作の『クヌギ林のざわざわ荘』以来、もっぱら自然の中の不思議を書き続けてきている作家の最新作である。この作品では、父親の転勤で東京から大阪の山の中の小さな町に住むことになった少年に、座敷わらしの「ぼっこ」が寄り添い、その不安や孤立感を不思議な力で解きほぐしていく。
 少年が移り住むことになった所は、父親が子ども時代を過ごした実家の古い屋敷なのだが、少年も母親も突然の田舎暮らしになかなか馴染めない。
 しかも少年は東京からきたというので、学校でも奇異な目で見られクラスにすんなりとけこめない。
 運動会のリレー選手に選考されたことから、級友にねたまれて運動靴を隠されるが、ぼっこの協力で沼の中から見つけだす。
 級友が山で崖から落ちて何日も意識を失っているのを、少年はぼっこに連れられて山の主の山姥に会い、級友の魂を返してもらう。
 ぼっこを通して、少年は自然の不思議な力を知らされ、学校にも田舎暮らしにも次第に溶け込んでいく。
 都会からきた少年に、民間に伝承されてきた座敷わらしや山姥や天狗などの異界のキャラクターを出会わせ、その魔力を通して山の力や自然の不思議な力を浮上させながら、都市化が進んでもなお失われることのない現代人の心の故郷を鮮明に印象づける作品である。(野上暁)産経新聞98.07.07(小学中級から)  (/・一二〇〇円)