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タイトルから予想がつくとおり、『ぼくと彼が幸せだった頃』(服田廣司訳、早川書房・1500円)は、ホモセクシャアルの青年を主人公にした、ゲイ作家による小説だ。「美少年大好き」の同人少女も、アブナイものに興味ある人も、好奇心にかられてでいいからどんどん読んでみてほしい。 「ぼく」アンドルゥは、裕福な家に生まれ、コロンビア大学で哲学と音楽を専攻し、つまりは非の打ちどころのないプレッピー。「彼」テッドは、オフ・ブロードウェーの俳優で金髪の美青年。スポーツジムで体を鍛え、無数のパートナーとセックスを楽しむ、美貌か才能か富を持ったゲイたち。輝くような80年代のゲイ・カルチャーを、不意を打つように襲ったのは、エイズによる死の恐怖だ。 それと葛藤する中で、ふたりが家族や友人たちと心を通わせていくさまが、心を揺さぶる。 テッドが去り「なんであいつを愛さなきゃいけなかったんだ!」と叫ぶぼくに、友人は言う――人は相手が男だろうと女だろうと、誰を愛するか自分で選ぶんじゃない。自分の愛情を拒絶して惨めに重いをするか、それとも素直に受け入れ喜びとして味わうか、を選べるだけなんだ。 死の予感によって結ばれる人間同士の共感が繊細に描かれ、ホロッと優しい気持ちにさせられてしまった。極上の恋愛小説ですね。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席
テキストファイル化 妹尾良子
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