ボタン

サラ・ファネリ作

ほむらひろし訳 フレーベル館 1997


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 真っ黒な表紙に、光の当たり方によって微妙に変化する黒の箔押しをした英文タイトル。その下に穴が四つあいた真っ赤な円盤。透明なビニールカバーに、白く小さな和文タイトルを配し、それを外して円盤を回すと、作品に登場するキャラクターが現れる。
この手の込んだしゃれた装丁に、まず度肝を抜かれる。ユニークな前作『ちずのえほん』に続くサラ・ファネリの第二作である。 穴のあいた真っ赤な円盤は、この本の主人公のボタン。ある日ボタンは考えた。「ぼく、せかいを みに ゆこう」。男のコートから飛び出したボタンは、冒険の旅にでる。
真っ暗でゴチャゴチャの男のコートのポケットの小さな穴から滑り落ちたボタンは、女の子の輪回しの輪にされてクルンクルンと回り、それから農夫の荷車の車輪になってゴロンゴロンとワラを市場に運び、そこから外れてオオカミのお皿にされて骨付き肉をのせ、豚の家の風見になり、宿無しカタツムリの背中に乗っかって世界中を探検する。コートの小さな赤いボタンが、変幻自在に変身をかさね、さまざまなキャラクターを渡り歩いていくその様子が、ユーモラスで笑いを誘う。鮮やかな色を巧みに組みあわせてコラージュしたアートワークと物語展開にあわせた文字のレイアウトも遊び心を刺激する。幼児から大人まで、さまざまに楽しめるおしゃれな本だ。(野上暁
産経新聞97/11/25