ぶきっちょアンナのおくりもの

ジーン・リトル作
田崎眞喜子訳 ベネッセコーポレーション

           
         
         
         
         
         
         
    


 印象的なクリスマスの場面といえば、この本が思い浮かびます。物語はナチズムの暗雲がたれこめだした一九三三年のドイツからはじまります。ソルデン一家の末っ子、九歳のアンナは、姉や兄たちに出来ることが、なかなかうまく出来ません。字もうまく読めず、走っても転んでしまいます。そのため「ぶきっちょアンナ」と、あんまりありがたくないあだ名で呼ばれているのです。
 自由を願う人びとに危険が迫りはじめた難しい時代、父親は家族とともにカナダへ移住します。経済恐慌のさなか、トロントで食料品店をきりもりする一家。そしてきょうだいたちの中では、「どこか違う子ども」のアンナをはじき
だすような力が働き、アンナは心を閉ざしがちです。
でも、アンナのよい理解者である医者のシュマッヒャー先生によって、アンナは視力が弱いだけだったことがわかります。家族は誰も気づかなかったのでした! 眼鏡をかけ、弱視の子どもたちの学級に入ったアンナは、親切な先生やクラスメイトによって心が開かれ、「ぶきっちょ」どころではない器用さと集中力を発揮していきます。 そして、カナダでの初めてのクリスマス。ドイツ式にロウソクを飾った美しいツリーのもとで、子どもたちはそれぞれ両親に贈り物をします。「アンナにはむりだよ」といつも言われていた彼女。その贈り物の素晴らしさにみんなびっくり! それは心をこめて編み上げられた屑籠でした。
自分たちにとって<異質>なものを排除しようとする動きは、家族にも学校にも社会にも見られます。私たちが心の自由と他者との和解を得る時、その暗い力ははねのけられるのではないでしょうか。
 作者はカナダの作家。子どもの頃から視力が弱く、後にはほとんど見えなくなりましたが、多くの心温まる作品を書き続けています。(きどのりこ
『こころの友』1998.12