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エジソンやキューリー夫人といった<偉人>の伝記は、書店の児童コーナーに相変わらずの定番としてずらりと並んでいますが、あまり知られずとも、人間や社会のために力を尽くした地道な人びとを描いた本はとても少ないのです。 でも、少しずつそうした人びとと時代を伝える本が出てきました。ブラジルで今も「日系移民の母」と讃えられている渡辺トミ・マルガリーダの生涯を中心に語られるこの本も、その一冊です。 ブラジルは、日本から見れば地球の裏側、いちばん遠い国ですが、一九〇八(明治四十一)年から日本の移民を受け入れ、今も日系人と呼ばれる移民とその子孫が百四十万人も住んでいます。 一九一二(明治四十五)年、鹿児島県枕崎のカツオ漁民の娘だった十一歳のトミは、家族を離れ、移民船にのって新天地ブラジルにわたりました。サンパウロの奥地のコーヒー農園で、自然とたたかいながら働く農民たち。トミはブラジル人の家のお手伝いさんになり、誠実な仕事ぶりから信頼され、成長して日系移民とブラジル人との掛け橋のような存在になります。 しかし、連合国にむかって日本が引き起こした戦争によって、日系人たちの生活は激変しました。敵国人として強制収容され、日本政府からも見放された彼らのために、クリスチャンのトミは教会の助けを受けて、救援活動に走りまわり、サンパウロに日本人救援会を設立したのです。戦後も、戦災にあった日本に物資を送り、九十歳で亡くなるまで福祉事業に力をつくしたトミの生涯は、洗礼名のマルガリーダ(真珠)のような静かな輝きを放っています。 「移民」についての社会的な解説も添えられたこの本は、「心の国際化」にふさわしいものであり、また現在日本に労働者として来ている外国人や日系人を理解する助けともなるでしょう。(きどのりこ) 『こころの友』1999.03 |
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