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髪を金色に染めたホーキ頭の高校生が、三日ぶりに帰った団地で家を間違えたばかりに、母親が家出した家庭の混乱に巻き込まれ、予想外の結末となる「金色ホーキちゃん」。パッチワーク作家が、素材に買った信玄袋の中に素っ裸の赤ちゃんがいたところから、何十年も前に見合いし損なった人と再会する「桃から生まれた」。風邪をひいて家で寝ていると見知らぬお姉さんがアイスクリームを持って現れ、髪の毛を洗ってきれいに梳かしてくれる「ハメルンのお姉さん」。いずれも「三匹の熊」「桃太郎」「ハメルンの笛吹男」など、内外のおとぎ話をモチーフにした、ちょっとミステリアスで洒落た短編作品が全部で一一編。 どこまでが現実で、どこからが非現実なのか。作者が紡ぎ出した物語に誘われると、誰もが確かだと思っていた世界の輪郭が緩やかに溶解していく。心理学者の河合隼雄氏は「日本人は意識と無意識の隔壁が西洋人に比して薄いので、ファンタジーをひとつの作品として結実させるのがむずかしい」と述べたことがある。この作家は、その薄さを逆手にとって、無意識領域での心の動きを"不思議"の衣装に包んで鮮やかに浮上させてみせる。そこに、人と人とを結びつけた宿縁のようなものをさりげなく入れ込んで、読み手の不思議感覚を増幅させるのだ。そして、その深層に様々な"愛"の有り様が表象されているから、子どもばかりか大人の読者をも気持ちよく酔わせてくれる。まさに柏葉マジックであり、幅広い読者に支持される所以でもあろう。 それぞれに深い悩みや欠落感を抱え込んだ四人の女性たちが、真夏の陽炎の中をやってきた不思議なバスに乗って、ブレーメンで世代を越えた共同生活を予兆させる表題作も印象的だ。(野上暁) |
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