ブリガドーンの朝

小野裕康

理論社 1996

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 考古学上の新発見が相次ぎ、古代史が大きく書き替えられようとしている。古墳や古代遺跡や埋蔵品は、何千年もの時代の壁を飛び越えて当時の生活の実態を現代に伝えるタイムカプセルでもある。その古墳群のある村に土着の妖怪たちが跳梁跋扈する、じつにエキサイティングなSFファンタジーが登場した。
 村外れにあるシンノウ塚は別名を呪い塚とも言って、以前その発掘をした調査隊のメンバーのうち、死んだり原因不明の病気や事故に遭った者が十数名もいる。以来発掘は中止され、タタリがあるというので怖がって夜などは誰もが近づかない。ところがその塚に一人の少年が真夜中に侵入し、古墳の心臓部にあたる玄室の石棺を開けて、古代人が奴婆多麻と呼んで恐れていた妖魔を蘇らせてしまう。
ブリガドーン現象(妖気に包まれた地域で眠っていた妖怪を復活促進させる)が頻繁に起こる村を舞台に、子どもたちと妖怪や妖魔との不気味で壮絶な闘いが展開する。幾つかの塚にバラバラに封じ込められていたシンノウの体が合体し、巨人となって村をのし歩く。巨人シンノウとは、人々を征服し支配しようとする石仮面の意思を体現したものらしい。「シンノウ」が何を意味するかは、それが古墳である以上大方の想像はできよう。村のタブーに果敢に挑戦した少年少女の闘いが爽快だ。結末の仕掛けの意外性も印象に残る。(野上暁) 
産経新聞、1996年5月17日号