ファンタスマゴリア

たむらしげる

架空社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 去年出た、たむらしげるの『サボテンぼうやの冒険』(偕成社)はサボテンぼうやとギターをしょったおじさんの旅の話を、挿絵とマンガと文章で構成したほのぼのナンセンスの傑作だと思うのだが、あまり評判にならなかった。おそらく、子どもの本として出版されたのが敗因ではないだろうか。これがペーパーバックで大学の書店なんかに置かれていたら、かなり注目されたにちがいない。たむらしげるの絵は、なんたって若者の感性にぴったりなのだ。ああ、もったいない、と思っていたら、架空社から、たむらしげるの作品集『ファンタアスマゴリア』がでた。
 そう、タッチは表紙の写真をみてのとおりなのだが、とにかく、すきとおるばかりの色がいい、大胆な発想をさりげなく受けとめた構図がいい、ほんわかやさしいけれど、ちょっと寂しい雰囲気がいい、というわけで、もうだれかれかまわずこの本を勧めている今日この頃なのだ。たとえば、砂漠にでっかい電球が横たわっていて、そのまえを犬を連れたおじさんが歩いている絵がいい。世界中を旅してまわるビルの歩いている夜の風景もいい。
 椎名誠にも宣伝してもらおう。「このすさまじい情報過多時代に、すぐれたもの、人間の心の奥底にあつくやわらかいメッセージを送ってくる力は、まだ厳然として存在していた」 全国の書店のウィンドーにこの本が並ぶと、これまた絵になるなあ、などと考えている今日この頃です。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/04/09