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アメリカを代表するヤングアダルト小説作家、ロバー卜・コーミアの作品は暴力的で、救いがなく、暗い。 『チョコレー卜戦争』でも『ぼくが死んだ朝』でも、若者たちは徹底的に痛めつけられ、必死に抵抗するが、最後は悲惨な結末を迎える。コーミアの小説の迫力は青春小説というより恐怖小説に近い。が、その一貫した姿勢はさわやかで、暗い内容にもかかわらず、読後感は驚くほど快い。 三冊目の翻訳『フェイド』 (北澤和彦訳、扶桑社・六二○円)にはそういったコーミアの魅力に、物語としての面白さと構成のうまさが加わった。 姿を消す能力があることに気がついたほくは、それが一族に代々伝えられてきたものだったことを知る。ほくはその能力ゆえに苦しみ、悩み、追いつめられるうちに、命に翻弄(ほんろう)され、ついに殺人を犯してしまった…という手を残したまま天才作家ポール・ロジェイは夭折(ようせつ)する。この手記が第一部で、あとは手記の真偽をめぐっての物語と、もう一人の姿を消す能力を持つ邪悪な少年の物語になっている。 最後まで一気に読ませる、一風変わったミステリーの傑作。スティーブン・キングの賞賛も十分うなずける。(金原瑞人 )
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1993/06/13
テキストファイル化 内藤文子
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