FLIX フリックス

トミ・ウンゲラー/作
今江祥智/ BL出版 2002.06

           
         
         
         
         
         
         
    

 絵本というメディアは、時代が抱える難しいテーマを、こんなにもわかりやすく鮮やかに表象してみせるものかと驚かされる。まさにウンゲラーならではの見事な腕前だ。
 しあわせな猫の夫妻に待望の赤ちゃんが誕生する。ところが、生まれてきたのは犬の男の子だったから、センセーションを巻き起こす。でも両親はフリックスと名付けて、立派な猫の子として木登りを教えたり水泳を習わせたり。両親の配慮で、犬の学校に入学したフリックスは、溺れそうになった釣り猫を助けて、猫町で一目をおかれる。優等生で高校を卒業したフリックスは犬の大学に入学し、火事になった女子寮から助けを求めている女子学生を、木に登って救出する。フリックスは女子学生と恋に落ち、大学卒業後に二人は結婚する。犬町と猫町から教会に集まった連中の表情や仕草のそれぞれが、じつにユーモラス。場面の隅々まで楽しめる仕掛けで、さすがウンゲラーの筆さばき。簡潔でユーモラスな訳文とともに、すっかり堪能させられてしまう。社会人となったフリックスは、政界入りして犬猫連合を結成し、両者の共生と同権を旗印に両町を合併させて市長に当選する。そして二人に赤ちゃんが生まれるのだが、それが猫の女の子だったという結末もお見事。人種や民族の障壁をさりげなく超脱してみせる、現代を思想する絵本である。(野上暁 産経新聞)