不思議を売る男

ジェラルディン・マコーリアン

金原瑞人訳 偕成社

           
         
         
         
         
         
         
     
 学校の課外レポートのため、図書館で半日過ごすはめになったエイルサ。図書館見学なんて気がすすまない。興味があるのは「動物の飼育」と「工業」だって書いたのに、行儀のよい子は図書館見学に行かされるらしい。
 静まりかえった館内、見学はすすみ、新聞はもちろん電話帳や利用者カード、大活字本もみせてもらった。それでもながい午後はなかなかおわらない。今度はマイクロフィルムの機械の番だ。副館長は「特別サービスよ」っていうけど、エイルサは退屈でたまらない。そんなときだった。エイルサがその男に会ったのは。緑色のコーデュロィの上着はしわだらけで、肘も脇の下もボタンホールまでもすりきれているし、緑色のネクタイは襟からだらりとぶらさがっている。ズボンの膝にもしみがあって、スエードの靴もあちこち汚れている。どうみても相手にしないほうがよさそうだ。
 「リーディング(本の国)からきた」といううさんくさいこの男に、副館長も手こずっているらしい。とうとう「警察を呼ぶわ。なにがなんでもでていってもらうから」と言い残して立ち去ってしまった。気の毒になったエイルサはつい口をすべらしてしまう。「家で店員を募集しているけれど…」
 エイルサの母、ポーぺイ夫人は、亡き夫が遺した中古家具の店を営んでいた。とはいっても店は左前で、店員を雇う余裕はない。それでも男は「少しの食べ物と、寝る場所と本さえあればいいんです」と自分を売り込み、店で働くことになった。素姓のわからない男M MCに、最初のうちは困っていたエイルサ母子。でも彼が働くようになると、それまで店で挨を被っていた古道具が、売れ出す。
 秘密はMMCの語る物語。客が来ると、彼は目の前にある家具の由来をまことしとやかに語りはじめる。その不思議なこと、おもしろいこと。物語は実に多種多様、イギリス、アイルランド、インド、中国、トランシルバニアといろんな国が舞台となる。話を聞きおえ、満足した客たちは、古びた品物に心を奪われ、買い求めるといった具合。「どうしてMMCはこんなに素晴らしい物語を知っているの? いったいどこからやってきたんだろう?」でも男の謎は深まるばかり。最終章でついに・・。
 この「不思議を売る男」は全部で十三章。男の語る十一の物語そ れぞれが、読みごたえのある短編小説に仕上がっている。それはまるで一話一話味わいのことなる話がぎっしりつまった玉手箱のよう。一枚の柳模様の絵皿にこめられた陶工の深く切ない愛情、磨きこまれたマホガニーの大きなテーブルからは盛大な晩餐会、おいしそうなご馳走の様子…目の前の古道具を題材に、語り続けるMMC。知らず知らずのうちに、その魅力にひきよせられ、虜になっていくのはエイルサだけではないはず。物語の好きな方には特におすすめ。秋の夜長に少しずつ大切に楽しみたい、そんな珠玉の作品がそろってる一冊。(星野博美)
徳間書店 子どもの本だより5/27号 1998/09