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ヒャラーリヒャラリーコの笛吹童子といっても、それを知っているのは中年以上の人たちだけかもしれない。一九五三年の一月からNHKラジオで、土日をのぞいて毎日夕方放送され、当時の子どもたちを熱狂させた連続放送劇だ。後に東映で映画にもなって、これも大ヒットした。 七〇年代になってからも、TBSでテレビ化されたりNHKで人形劇になったりと、何度もメディアに登場したのだから、戦後の子ども文化を代表する作品の一つでもある。これが、「痛快 世界の冒険文学」の一冊として橋本治の熱のこもった文章で鮮やかによみがえった。妖気をはらんだ岡田嘉夫の挿絵も魅力的だ。 時代は応仁の乱の後。丹波の国の満月城が赤柿玄蕃の率いる野武士の大群に攻め落とされる。その家臣や城主の二人の息子、剣の萩丸と面作りの菊丸に、足利将軍の弟の子どもで、戦火の中で別れ別れになった霧の小次郎と胡蝶尼の兄妹などがからみ、悪のされこうべ党と正義の白鳥党の壮絶な戦いが展開する。 笛吹童子とは名笛春鶯囀を吹き人々の心を安らがせる面作りの菊丸のこと。天竺から空を飛んでやってきた堤婆、幻術を使う霧の小次郎、顔に付けたら離れなくなる髑髏の面。個性豊かなキャラクターと不思議なアイテムが荒唐無稽な物語を魅力的に彩る。「悪というのは、悲しい心の不幸ななれのはて」だという作者のメッセージも今日的だ。(野上暁)
産経新聞1998/05/05
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