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子どもにとって親たちの仕事というのは、なんともミステリアスであり、興味深いものでもある。朝早く家を出たまま、夜遅くまで帰ってこない、お父さんの大事な「仕事」とか「会社」というのは、いったい何をどうするところなのだろうか。 この物語の主人公・大輔の父親は新聞記者である。父親の転勤により、五年生の一学期を終えたところで、突然、おもしろ市月波小学校に転校する。父の転勤先は支局の通信部で、仕事場は自宅のマンションの一室。小さな町だから、事件らしい事件はめったにない。海辺で潮干狩りの撮影をしたり、台風の海岸で岸壁に打ち寄せる波を特写したり。そのときに見つけた迷子の子犬を新聞で紹介すると、持ち主のおばあさんが訪ねてくるが、三年前の台風のときにいなくなったそのままの姿でびっくりしたり。大輔は、友だちと一緒に父の取材現場にたびたび同行する。神社の祭りのおかしな儀式。世界最驚の魔術師の不思議なマジック。持ち主から離れて一人歩きする携帯電話。現実には起こりえないような、奇妙で不思議な現象が次々と起こる。そのそれぞれが、深刻なミステリーでも陰惨なホラーでもなく、どこか間が抜けていてユーモラスで結構笑える。東菜奈の、巻頭のおもしろ駅周辺地図、今一新聞おもしろ通信部や記者クラブの俯瞰図。見開き漫画の「新聞記者のこわーい話」も効果的で楽しい。サービス満点の痛快読み物だ。(野上暁)
産経新聞2000/09/05
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