フレデリック

レオ・レオニ作・絵 谷川俊太郎訳、好学社

           
         
         
         
         
         
         
    
ちょっとかわったねずみのはなし

 まきばの古い石垣の中に五ひきのねずみが住んでいました。のねずみたちは、近づく冬の準備のために、一生懸命働きます。ところが、フレデリックだけは別でした。ただぼんやりとしています。でも、フレデリックは、寒くて暗い冬のために、おひさまのひかりを、いろを、ことばを集めていたのです。
 そして、冬が来ました。初めは食べ物もたくさんありましたが、だんだんと減ってきました。皆は元気がなくなってきます。
 そのときフレデリックが言います。
「めをつむってごらん」
 そして、夏の間に集めた、おひさまのひかりや、いろいろないろの話をします。皆は何だかあたたかくなってきます。
 皆は言います。
「おどろいたなあ、フレデリック。きみってしじんじゃないか!」
 一見「物臭太郎」ふうに坐りこんでいて、それでいて唯の「なまけ者」ではない照れ屋の野ねずみフレデリック。ぼくは、レオニのこの一冊の絵本によって、絵本の魅力というものを確実に教えられたように思う。子どもの絵本が「子どもだけ」のものではなく、ひろく、大人を含めて人間の楽しみや在り方を語りうるということを、この絵本ほどあざやかに伝えたものはない。ぼくは何十遍『フレデリック』を眺めたことだろう。また何度か、この絵本については書いた。「目に見えるもの」ではなく、「目に見えないもの」の価値を告げる野ねずみ……だとか、また、そうした価値を受け入れる野ねずみの共同体……だとか。これは、人間の生きざまを考える場合のすぐれたテキストにもなりうるし、そうした「言外の意味」を横に置いて眺めても、それだけで楽しくなってくる絵本である。『フレデリック』を知ることで、ぼくらは改めて、じぶんたちの生き方をふりかえるだろう。(上野瞭)
絵本の本棚 すばる書房 1976
テキストファイル化田代翠