ふろたき

酒井 昌宏・作 評論社

           
         
         
         
         
         
         
    
    

愛知県の山ぞいの町に住む小学校六年生の少年が書いたこの絵本は、昭和六十二年度の「手作り絵本コンテスト」幼児・児童の部で内閣総理大臣賞を受賞した作品です 今では、ほとんどの家庭でふろはガスや蛇口をひねればお湯がでる便利な生活になっています。そんな生活になれてしまっている私たちに、この本はなつかしさと同時に、ぬくぬくとした手作りのあたたかさを伝えてくれます。
大工をしている父と母と妹の四人家族の中で「ちぇっ、なんでぼくばっか、やらにゃあいかん」といいながらも毎日まきでふろをたく少年。ある日、お父さんとおふろに入ったとき
「大工はなぁ、木のけむりがせんとつかれがとれん」
ということばを聞き、少年の心は動きます。ごくごく日常的なふろたきをテーマにして、父親の働く姿と大きな存在と、家族のむすびつきが素直に描かれ、少年の心の豊かさがうかがえます。
絵がまたダイナミックで力強い。少年の顔半分を照らしているふろがまの赤い炎の色も、けむりの色もとてもいい。そして何よりもそれぞれの顔が実に豊かに描かれていることです。最後のページの少年の顔は、キリリとしまってたくましい。酒井君もきっとこんな顔をしているのでしょう。文と絵の構成も面白く、手作り絵本のたのしさがいっぱいの本です。(天)静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化杉本恵三子