ふしぎな いきもの

クヴィエタ・パツォウスカー絵・アネリース・シュヴァルツ文

池内紀訳・ほるぷ出版 1990

           
         
         
         
         
         
         
     
 「ガラスの竜骨/ガラスの帆布/暗いガラス窓からすべりだす//船長は こはくいろの目のこねこ/夜いろの毛皮/偏西風になびかせ//星さえおとずれなかった/人跡未踏の草原で/光の花のなぞ追う冒険//空がなないろに/染まるころまでには/ひみつのしずくつけて帰っておいで」・佐藤弓生作『月的現象』(沖積舎・九七一円)より と、こんな詩を枕に、今回紹介するのは本邦初登場、プラハ生まれの画家パツォウスカーの絵本『ふしぎな いきもの』。
 これはリキ少年の夜の冒険の物語。連れは、サイともウシともカバともつかない、「ふしぎないきもの」。空も飛べるし、海も泳げる「ふしぎないきもの」だ。
 それにしても、絵がすばらしい。とにかく見るにしくはないのだが、いってみれば、ミロとカンディンスキーを足して、ウォーホルをちょっとふりかけると、こんな絵本ができあがるのかもしれない。しっかりした強さと深みを持ちながら、独創的でユーモラスで、そのうえキュート……などと説明するのが馬鹿ばかしく思えるほどの絵……というか、まあ書店にいって見てください。これを機に、クヴィエタ・パツォウスカーの絵本がどんどん翻訳されることを望んでやみません。
 さて、最後も『月的現象』の歌でしめましょうか。「はりはりと虚空(そら)の砕ける音をきく月読花のふりしきる夜は」 おやすみなさい。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 90/12/02