ふしぎなオルガン改版

レアンダー:作
国松孝二:訳 岩波少年文庫刊(再販未定)

           
         
         
         
         
         
         
    
[忘れがたい女の子]

 子どものころ、本を読むときに、女の子が主人公だとわくわくしました。お気に入りはたくさんいましたが、中で一人、「別格」という感じの主人公がいました、、「沼のなかのハイノ」(「ふしぎなオルガン」所収)に登場する「青い目さん」です。短いお話の、ちゃんとした名前もないようなヒロインなのですが、彼女の「強さ」が、とても印象的だったのです。
「青い目さん」は、ハイノ王子の恋人でした、、息子が貧しい娘とつきあっていることを知った王様は、「青い目さん」を殺させようとして失敗、お妃に怒られます。「どうして、そう…すぐ殺してしまおうとするんですの? 男って…ほんとに困ったものですわ」(王様が、ついでに下着のひもをちぎったことまでお妃にしかられるところには、笑ってしまいます。)
 さてお妃は奸計をめぐらし、毒草を使って、ハイノに恋人のことを忘れさせてしまいます。けれども「青い目さん」は、ハイノに自分を思い出させようとはせず、日々どうしているかを鳩に見に行かせるだけでした。
ところが、鳩が「ハイノが鬼火の沼の女王に囚われた」と知らせてくると、「青い目さん」は立ち上がります。そして沼にかけつけて、「ぼくはもうだめだ」「沈むよ、おぼれてしまうよ」と弱音を吐くハイノを、何がなんでも助けようとします。鬼火の女王が帰すまいとハイノの腕をつかみ、にっちもさっちも行かなくなると、「青い目さんはハイノの剣を使って、女王に掴まれているハイノの右手を、「『ハイノ、だいじょうぶよ』とさけんで…すぐ手首のところから、一打ちに切りおとしてしまいました。」
 その後も、「腕が焼けるよ、青い目さん」と訴えるハイノを、おぶうようにして岸にあがった「青い目さん」は、意識を失ったハイノを残し、ひと足先に王様たちのところへ参上します。そして「うれしそうに王様を見つめながら申しました。『王子様をお救いいたしました…もう二度とお目にかかりません』」
 ずばっと腕を切り落とす決断力と勇気、二人を引き離そうとした王様たちを恨まず、ハイノが助かったことだけを喜ぶ態度、「すごい女の人だなあ」と、初めて読んだときにはどきどきしました。王様たちが改心して、二人が結婚を許されて、というハッピーエンドのことは、やがてすっかり忘れてしまい、ちろちろと鬼火の燃える幻想的で恐ろしい沼の風景と、その中を行く、「ちっとも強くもかっこよくもない弱音ばかり吐く傷ついた王子様」をおぶった芯の強い女の子、の像だけが、いつまでも心に残りました。ほかのお気に入りのヒロインと違って、「青い目さんになってみたい」という気持ちは湧きませんでしたが、誰かに感情移入して物語を楽しむ、という楽しみ方とは違う、「人にはこういう在り方もある」ということを知り、感動する、という新たな読書の楽しみを知った、初めての物語だったという気がします。(上村令)

徳間書店子どもの本だより2001.09/10
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