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絵本の魅力にもいろいろあるが、ページをめくったとたん、目に飛び込んでくる画面の意表をつく美しさ、楽しさこそ、その第一にあげられるべきだろう。 たとえば、この本の見開きいっぱいにひろがる風船畑の光景! トウモロコシふうの植物の先端が、道化師や動物の顔、怪獣などをかたどった色とりどりの風船なのである。 これは、ハーベイ・ポッターという変わり者の農夫の畑で、むろん風船作りをしているのは彼だけだ。風船畑の秘密を探る少女が、この物語の語り手になっている。少女は、原作者ジャーディン・ノーレンと同じようにアフリカ系アメリカ人として描かれる。 少女はハーベイに近づき、そのうち本当に好きになってしまった。そしてある満月の夜、畑に向かうハーベイを尾(つ)けて、彼の魔法を知ることになる。 最後のページ、語り手は初老農夫になって登場する。三十二回目の風船の取り入れのシーンだ。彼女はハーベイに特別大きく育ててもらった風船で気球を作り、ふるさとを後にしたのだった。 それから四十年、彼女は新しい場所で、ハーベイとはまた少し違ったやり方で、風船作りにいそしむことになったらしい。彼女のはトウモロコシ式ではなく、カブかダイコンのように、地中で風船を実らせるのである。(斎藤次郎)
産経新聞 1998/03/03
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