ふうせんばたけのひみつ

ジャーディン・ノーレン文/マーク・ビーナー絵

山内智恵子訳 徳間書店 1998

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 絵本の魅力にもいろいろあるが、ページをめくったとたん、目に飛び込んでくる画面の意表をつく美しさ、楽しさこそ、その第一にあげられるべきだろう。
 たとえば、この本の見開きいっぱいにひろがる風船畑の光景! トウモロコシふうの植物の先端が、道化師や動物の顔、怪獣などをかたどった色とりどりの風船なのである。
 これは、ハーベイ・ポッターという変わり者の農夫の畑で、むろん風船作りをしているのは彼だけだ。風船畑の秘密を探る少女が、この物語の語り手になっている。少女は、原作者ジャーディン・ノーレンと同じようにアフリカ系アメリカ人として描かれる。
 少女はハーベイに近づき、そのうち本当に好きになってしまった。そしてある満月の夜、畑に向かうハーベイを尾(つ)けて、彼の魔法を知ることになる。
 最後のページ、語り手は初老農夫になって登場する。三十二回目の風船の取り入れのシーンだ。彼女はハーベイに特別大きく育ててもらった風船で気球を作り、ふるさとを後にしたのだった。
 それから四十年、彼女は新しい場所で、ハーベイとはまた少し違ったやり方で、風船作りにいそしむことになったらしい。彼女のはトウモロコシ式ではなく、カブかダイコンのように、地中で風船を実らせるのである。(斎藤次郎)

産経新聞 1998/03/03