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「本は結構たくさんいろいろと読むけど、詩の本だけは読んだことなかったんだ」 「詩ってわかりにくいものね」 「うん。そのわかりにくさのウラに隠されているイメージを解読していく作業が、詩を読むのが好きな人にとって快感なのかもしれないけど、でもリルケとかエリオッ卜なんてホントにさっぱりわからないものね」 「小野十三郎なんかもね」 「オノ卜ーサブロー?」 「知らない? 昔国語の教科書に載ってたわよ」 「ふーん。で、まあぼくは詩に対して偏見を持ってたわけさ。だからこの本だって谷川俊太郎の詩集だからじゃなくて、佐野洋子の絵が好きだから読み始めたんだよ。でもこれがよくわかるんだ。ぜんぶひらがなでこどものことばで書かれてるんだけど、よくわかるんだよ」 「どん なふうに?」 「うん。たとえば本のタイ卜ルにもなってる、『はだか』っていう詩は、女の子が昼間に突然はだかになりたくなって、ホン卜に服を全部脱いじゃうっていう詩なんだけど、この間実際にやってみたんだよ、ぼくも」 「ヤダー。ホン卜に?」 「ホントにたまたま昼間ひとりだったからさ」 「それで?」 「それで詩に書いてあるようにすごく胸がどきどきしたし、さむいぼもたってさ、あとは読んでからのお楽しみってことにしといた方がいいと思うけど」 「へーえ。へんな人」 「うん。でも読み終ってすごいなって思ったよ。わずかのことばでこんなことも表現できるんだなあってね」 「それでその本貸してくれるってわけ?」 「そう。だから明日逢わない?」 「いいわよ」 「ヤッター! じゃあ6 時にいつもの所で」 「うん」 「電車が来たから切るよ。それじゃあ,明日ね。おやすみ」 「おやすみなさい」ガチヤッ、プー・プー・プー……。」(しんやひろゆき)
1989/10
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