はいけい女王様、弟を助けてください

モーリス・グライツマン

唐沢則幸訳 徳間書店 1998/1998

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 コリンの八歳の弟ルークは、クリスマス・プレゼントにもらったミグ戦闘機で遊んでいるうち、突然倒れた。興奮状態が続いたせいでも、消化不良でもなかった。もはや助かる見込みのないガンだったのである。
 両親はルークにつきそって、シドニーの病院へ、コリンはロンドン郊外のボブおじさんの家にあずけられることになる。コリン一家はオーストラリアの住人なのだ。 ルークは、弟の病気が治療のしようのない状態で、死を待つしかないのだという現実を、決して受け入れようとしない。ことがことだけに、おとなは詳しく説明してくれないので、子どもらしい想像力で病気に対抗していく。
 ルークの空想とそれにもとづく行動がおもしろいので、読者はつい背後の緊張した事態を忘れてしまう。不幸とたたかう子どもの流儀への作家の思い入れの深さが、質の高いユーモアをかもしている。
 ルークは、オーストラリアの医者はみんなヤブだと断定、イギリスの女王に手紙を書く。「陛下のかかりつけの医者で一番腕のいい人」をこっちにひとり回してもらえないか。だが、返事は来ない。もはや、待っていられない。バッキンガム宮殿に忍び込むしかない。
 結末がまたよい。ユーモア小説に見えて、おさえるところはしっかりおさえている。(斎藤次郎)
産経新聞 1998/04/07