はじめに

赤木かん子

           
         
         
         
         
         
         
    
 この〃図書館員のカキノタネ〃のシリ-ズも、これで三冊目になリました。
 ここまでこられましたのも、ひとえにみなさま方のご愛顧のおかげ……心よりお礼を申し上げます。
 この何年か日本は図書館ブームだそうで、確かにバンバン図書館は建ち、それにともなって図書館で働く人の数も増えてはいますが、問題は減るどころかますます増えてきています。
 たとえば、子どもの本は二十年前までは、これは子どもの本、これは大人の本…ときっぱり分けられたものが(したがってシロートでも、ホントになんとか…でしかないけど、なんとかはなった……)、いまでは絵本、小学生向き・高学年用・どれをとっても、これは子どもか、Y・A (ヤング・アダルト)か大人か:・:・と脳む本が増えてきたし、時代や文体も変わって、長く読みつがれてきた本がいい本……と、すましてもいられなくなってきました。
 新しい本の評価もしなくてはなりませんが、これはまだ誰も言ってくれないので、ひたすら自分の頭と目と手を頼りにするしかあリません。

 というわけで、今回はひたすら六歳から十二歳ぐらい……つまリ肉体的にも精神的にも正真正銘子ども……にお客さまを絞って、子ども自身がおもしろいと思ってくれるだろう本を並べてみました。
 岩波書店をはじめ、日本の各出版社が次々に外国の本を紹介してくれた一九六○年代には、子どもの本の中心は日本・外国ともに子どもが自分で読める本、子ども自身がおもしろいと思う本だったわけですが、時は流れ、ここのところずっと、日本ものは低学年中心……外国ものはヤング・アダルトが主流で、そのあいだの本はあまリあリませんでした。
 それだけでなく、昔は小学校四〜五年生が一人で読んだ字の小さい、厚い本が、いまは年齢的にスライドしてきて一年生用の本になっていたりしますが、そうなると、そういう本は読んでもらわないと手が届かない、ということになってしまいます
『エルマーのぼうけん』などは読んでもらう本、ということになっていますから読んでもらえますが、エルマーだって本当におもしろいのは五、六才くらいなのに、自分で読めるようになるのは十歳くらいでしょう。
 でも一年生に、三センチもあるような厚い本を読んでやることを思いつく人も、五〜六年生に読んでやることを思いつく人も、まだまだまれでしょう。
 というわけで、いま、高学年のと昔の本のあらかたは、本棚で眠ってしまっているのです。
 そうなると、頼リになるのは低学年の新しい本、ということになリますが、その主流の低学年の日本の本が、これまた子どもの本の関係者に評判がよくな……。買ってくれないところが結構ありますね。
 そうすると、ホントに本棚から子どもが読める本が消えてしまいます。
 子どもたちがおもしろい〜、と言って熱中すると、それっとばかりに取り上げようとするのは……子どもがあんなに喜ぶんだから悪い本に違いない……とでも思うのかしらね!?
 子どもを全然信用してないんだなって思うよ。
 でもいまのところ、十二歳以下の子どもたちは信用できます。活字の本で子どもたちがいい!おもしろい!っていう本は入れても大丈夫です。
 子どもに服買ってやるときに、自分に似合う服を選ぶ大人はいないでしょ。
 子どもに服買うときに一番大事なのは、その子に似合ってるかどうかってことじゃない? それと、その子がそれを着て、喜ぶかどうかよ。
 そしてこの二つのうち、どっちがより大事かといったら、あとのほうです。
 たとえその子にはピンクが似合わなくても、本人が着たい、というなら着せればいいんです。
 それで似合わないってことがわかるだけセンスがよければ、ちぇっ、と思って脱ぐでしょう。
 で、わかんないんなら……本人は満足するだろうから、それでいいじゃないですか!?
 ぴったり似合ってても着たくない服着てるよリ、ずーっと幸福です。
 本だって、その子がおもしろい!という本がおもしろいんです。
 つまんない!っていう本は、その子にはつまんないの。

 一人ひとり、好みも読書力も感性も違うんです。
 だから、もしその子がつまんない!って言ったら、お時間とらせてまことに申しわけございませんでした……なのよ。
 本を読むって……時間のかかることですから-その子の大切なひまな時間を奪うことになるでしょ。
 だからってなんでもかんでも仕入れて並べて、さあ自由にしなさいってもんでもありませんけどね。
 一人の人間が把握できる空間は限られますから、限られた空間、本棚のなかにバランスよく、いかに当たりのいい本を入れられるかが勝負です。
 といっても全部で二百冊ほどしか紹介できませんので、これだけで本棚を作るのはムリというものてす。
 どうぞ作者、出版社、訳者などを覚えて本を増やし、めいめい自分の図書館にあわせて情報を活用してください。