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この欄を担当させていただいてまず初めにご紹介したのが、パターソンの『ガラスの家族』でした。 今回の作品は、昨年彼女が国際アンデルセン賞を受けるきっかけともなった、すぐれた最近作です。 物語の舞台は、南北戦争前、おそらく一八五〇年代のアメリカ、カナダ国境に近いヴァーモントの農村。主人公のジップ少年が暮らしているのは、救貧農場とよばれる、宿なしや流れ者、ハンディのある者などを村から隔離するための施設です。 ジップは三歳の時、街道を通る荷馬車から落ちて泣いているところを、この農場に連れてこられました。十一歳の今は、だらしのない主任に代わって家畜の世話や畑仕事をきりもりする、頼もしい存在。ある日、農場に「あばれモン」が連れてこられます。精神を病み、時々発作を起こすため檻に入れられている老人パットなのですが、気分のよい時には「すべてよし」(アメリカ開拓時代の讃美歌)を美しいテナーで歌い、世話をするジップを魅了します。 この少年と老人の友情を軸にしながら、物語はジップのアイデンティティーの探索に踏みこんでいきます。彼は、アフリカ系の奴隷の女性とその使用主の白人との間に生まれた子で、逃亡に失敗した母親が、わが子の自由を願って馬車からつき落としたのでした。 さらにジップにも奴隷商人の追手がかかり、少年はパット老人を連れて、北極星を目じるしに国境を越えてモントリオールへ逃げていこうとします。 他者の存在によって、はじめて自分が確立すること、<悪魔の知恵>と対決するためには、蛇のような賢さも必要なことを教えられるこの作品には、前作『ワーキング・ガール』があり、紡績工場で働いていた主人公リディが、ここではジップを励まし、逃亡を助ける教師として再登場します。(きどのりこ) 『こころの友』1999.10 |
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