ハリーのひみつのオウム

ディック・キングスミス作

三村美智子訳 藤田裕美絵 講談社 1996

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 楽にたのしんで読める物語である。ハリー・ホールズワースのところへ、アメリカの大おじさんの遺言で遺産がとどくという手紙が舞い込む。ハリーは大いに期待するのだが、やってきたのは一羽のオウム。ハリーはちょっと拍子抜けするが、このオウムが世にもまれな天才とわかる。言語学者と長年いっしょに暮らしてきたから、言葉は自在でしかも豊かな教養と知識を身につけている。ハリーは宿題を助けてもらい、ホールズワース氏はクロスワード・パズルのすぐれたパートナーを発見し、夫人はアメリカ料理のレシピを教わって新しい料理をつくり、というわけで、オウムのマディスンは一家になくてはならない一員となる。
 しかし、好事魔多し。泥棒がはいったとき、マディスンが大声で助けを呼んだために、彼自身がさらわれてしまう。その彼がどのようにして難をのがれるかが後半のユーモラスでスリリングな物語。
 イギリスの作品らしく、小さなオウムがどうやって公衆電話をかけるかなど、細部が丁寧に描けていて、いわば荒唐無稽(むけい)な話に真実味を加え、面白さを濃密なものにしている。ナンセンスやユーモアは言葉のゲームでもあり、この物語もアメリカ英語とイギリス英語の表現の違いが大きな要素になっている。そこは十分に訳しきれていないが、訳者の努力は、軽快な読みやすさでむくわれている。(神宮輝夫)
産経新聞 1996/11/29