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 ずは、今、書店で山積みになっている『ハリー・ポッターと賢者の石』から。イギリスでテレビゲームをほっぽりだして子どもたちが夢中になって読んでいるという記事を発売前に見て、「日本じゃ無理じゃない」と思いつつの期待で読んだ。設定は魔法学校の物語で、そうとは知らずに叔母の家で邪険に育てられた男の子が、十一歳の誕生日に突如魔法学校からの入学許可証をもらい、びっくりというもの。ないはずの列車に乗ったり、空を飛んだり、悪と闘ったりとワクワクドキドキの物語が楽しく、思わず時間を忘れて読んでしまった。壮大なファンタジーによくある歴史的にどうのとか、国の王がどうのという重い背景がないから、物語はとっても軽く、ファンタジー苦手の人でもオーケーだ。でも、まあ、ゲームに夢中の子までというのはちょっとむずかしいかもしれない。厚くて重い本だから、子どもが学校に持っていくことはできないし、寝っころがって読むのもちょっと大変。もし原書で挑戦してみようという人がいれば、そちらをお薦めする。なにしろ、翻訳本が千九百円、洋書は二、三種類出ていてペーパーバックなら千二百円だもの。翻訳本も思いきって安い 造本にしてもらいたかった。
 同じファンタジーでも『ロバになったトム』は民話の風を感じる話。トムは頭がとってもよくて将来はロンドンに行って大金持ちになるんだから畑仕事を憶えるなんて時間のムダと言う。だけど、結局なんにもしない怠け者、というものすごくいやなヤツ。そのトムに妖精が贈り物をする。「夜明けとともにはじめた仕事は、日が暮れるまで終わることがない」そして旅に出るよう言う。その妖精の贈り物の意味が理解できなくて、旅に出るとまた妖精が現われて「将来の妻が思ったとおりのものになるでしょう」と二つ目の贈り物をする。でもこれもさっぱりわからないどころか、出会った女性の罵倒でロバにされてしまう。歯切れがよくて、安心して読めて読後感がとってもさわやか。
 さて、小学校中学年にはベテラン作家のふんわりとあったかい話、『なあくんとちいさなヨット』がお薦め。写実的なやさしい線の挿絵もいい。おとうさんからもらった積み木で作ったヨット。うれしくて川に浮かべたら、ひきがえるのおじさんが出てきて、ヨットで海に行くのが夢だったと言って、それに乗って川を下っていってしまった。わあわあ泣いて帰ったあとがとってもいい。お父さんがその話をきいて、ひきがえるのおじさんの長年の夢をかなえてあげたのならよかったじゃないかという。こんな余裕いいなあ。もっともおじさんの夢はすぐに破れるのだけれど、それがまたいい。
 『じてんしゃにのりたい!』は低学年の子どもの弾んだ気持ちですっと読んでしまう。
 子どもの落書きみたいな太ペンのラフな線画が話とピッタリ。自転車の乗り方というのは教えられるようで教えられないもの。「ペダルをこぐ」ってみんな言う。でもそれがわからない。
「ぼくたちは、ときどき、前に進むのがこわくなる。でも、バランスをとろうと思ったら、前に進むしかないんだから……」(作者あとがき)いいこと言ってくれる。
 異色の本を一冊。『中学生の教科書』は「学校とは、学問とは、各教科とは何なのか。それらはなぜ、何のためにあるのか。そして何を、何のためにまなぶのか」という学ぶにあたっての根本的な問いに答えたもの。島田雅彦(国語・外国語)、布施英利(美術)、野崎明弘(数学)、宇野功芳(音楽)、養老孟司(理科)、宮城まり子(社会)、池田晶子(道徳)の七人が語る。学校や勉強を押しつけられるのはいや。勉強がつまんないのは先生や社会が悪いから、なんて文句言っていないで、自転車に乗るように前向きに人生を考えたい。その指針になる教科書。この教科書の基本は各教科の奥深いところに「生き死に」があることという。暗記に嫌気がさしたら、ぱらぱらめくるといい発想転換になりそう。(平湯克子
2000/02 別刷 新刊Review