はるか、ノスタルジィ

山中恒
講談社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 人間は、忘れるから生きていける。いつまでも悲しみが忘れられなかったら、生きていかれない。でも、人が二度と思い出すまいと決心したとき、その封じ込められた記憶はどこに行くのだろうか。もしかしたらその記憶たちは、学校の裏山や公園の木立の間に、思い出してくれるのを待ちながら漂っているのかもしれない。
 『はるか、ノスタルジィ』(講談社・1200円)は、そんなふうに忘れられていた思い出が、ひとりの少女によって封印を解かれていく、という話。
 舞台は小樽。横町や、せまい路地、坂道。失われた記憶がひそんでいるところがいっぱいありそうな街。
 主人公の高校生、はるかはトラベルライターと称するちょっと怪しいけどステキなオジサン綾瀬慎介のガイドを引き受け、街のあちこちを尋ねて不思議なことに出合う。 あとを付きまとう同級生でビデオ好き、「被写体として好きだ」とへんな口説き方をする角倉。運転手は幼なじみで無口な大学院生の太田。はるかを取り巻く男たちも、それぞれにクセがある。
 この小説、大林宣彦監督が映画化する。原作をなぞる取り方をしない監督だから、いつも本と映画、両方で二倍楽しめて感動は二乗くらいできてしまう。前作の『ふたり』(赤川次郎作)でポロポロなケタあなた、今度はこれ読んでからね。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席
 
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