|
強いてあらすじを述べれば、地層のすき間に夢の地層がしのびこんでいるプリシオン市のOL、アスナ・グウェンドーリンが、会社のプロジェクトで埋め立て地にテーマパークをつくる仕事に参画したため、土の下にこもる「押し殺されたすべての声、みずからのみこんだ呪詛(じゅそ)、過去に埋めこんできたはずの罪と憤りのすべて」にぶつかり、あやうくそれにのみこまれそうになってかろうじて逃れ、宇宙の裏側から来たネヴィルの愛を支えにこれからを生きていくファンタジー、ということになろうか。 アスナは北海の孤島ハイブラセイルの伝説の英雄の血をひいているのだが、島は惑星監理局の保存地区指定を受けている。この島を含む世界は、ローラシア大陸、パンゲア大陸その他に分かれている。つまり、SF、エピック・ファンタジー、リアリズム小説の諸要素が混然と混じる不思議な物語世界である。 とっつきにくそうに聞こえるかもしれないが、はじめからいきなり物語の中に楽に入れて、一種ゆったりとした感じで読みすすめられる。それは、作者の脳裏にこの世界がクリアに創造されていて、読者に実在感を持たせるからだと思う。 この複雑な物語が伝える豊富なイメージときわめて今日的なアイデアの数々は、スタンダードな意味で子ども向きではない。だが、この作品をもっともよく読みこなして楽しむのは中学や高校の読者と思う。 (神宮輝夫)
産経新聞 1996/11/15
|
|