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ベッドのトリモチにつかまって、白鳥澄夫は小学一年生で不登校になった。ママの英才教育の賜物か、ベテラン教師のペースを乱す「やりにくい子」と、存在に大きなバツをつけられる。両親の離婚後、父親に捨てられた意識も重なって、それ以来ぼくは心に強いバリヤーを張る。 三、四年生のクラスはみんな仲良し、元気いっぱいが目標。いつでも何事にも一生懸命が大好きな藤井先生の号令で、連帯観の押しつけは陰湿ないじめにすり変わっていく。やっぱり、大人にぼくたちの声は聞こえない。 受験勉強に追われる五年生で自分を失いかけた岡崎が、ギリギリの淵で決行した家出。しかし、発見された時、母親が発したのは「四時間のロスタイム」…子どもの将来のためという大義のもとに、自分の夢を負わせて少しも気づかない姿が見える。差別にいじめ、先生や友だちに存在否定された子どもたち、子どもに依存して自立を阻害する親、いろんな声がバリヤーを突き抜けてぼくの心に響いてくる。そして、響き合いの中でぼくは心が鍛えられていく。 人間として成熟してから子どもの前にたてという作者の要求はなかなか厳しい。しかし、教育相談で出会ったたくさんの子どもたちの切実な思いが「おれたちの心を実験台にしないでくれ」という言葉にあふれている。アダルト・チルドレン、癒しを求める大人に応えようと心を砕き縛られた子どもたち、作品の中で澄夫たちは受け止めてくれる氏家先生たちと出会い、縛りから解き放たれるが…。子どもたちのサインを鏡に、私たちが真摯に生きる姿勢を問い直す必要を強く感じた。(園田 恭子)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28
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