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高度経済成長期以降の急速な伝統社会の解体と核家族化の進展は、それまでの家族のありようを著しく変容させてしまった。高年齢化も急ピッチで進んでいる。長寿は祝うべきものだったのだが、核家族にとってはまことに厄介な課題としてせり上がってきている。先ごろ急逝した民俗学者の宮田登は『老人と子供の民俗学』の中で、伝統社会の教育システムには村の老人から子供(孫)へという自然の流れがあったと述べている。老人(祖父母)と同盾ていることで、双方で教えられ励まされ癒される関係性が、家族の潤滑油ともなり共同体の智恵の伝達システムとしても機能していたのだ。 この作品は、父方の祖父が一時的に同居することになった家庭を舞台に、もうすぐ中学生になる少女と入学前の弟の、それぞれの祖父とのかかわりの中から、伝統社会が保持していた癒し癒され、お互いに元気付けられる関係性を蘇らせてみせる。少女は、大好きだったいとこの急死がきっかけで、沈みがちだった。そこに祖父がくる。弟は保育園の送り迎えをしてくれる祖父を慕い、少女には一種の安心感を抱かせる。連れ合いを亡くしてから急に元気を失くしていた祖父は、孫を送っていく保育園で新しい女性友だちと出会う。二人が結婚するということで動揺する両親たちに対し、少女は反発する。死の恐怖にとらわれていた少女と祖父が、お互いの出会いの中から勇気を取り戻す、核家族時代の蘇生の物語がさわやかである。(野上暁)
産經新聞インデックス2000.05.02
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