火の鳥

手塚治虫:作
角川書店

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 五百を超える手塚作品の中から一作を選ぶことは無謀だろうが、やはり「火の鳥」であろう。火の鳥とは、自らを炎に投じ何度でも生まれかわる伝説の鳥だ。その火の鳥も三十五年間に五誌にわたり発表誌をかえ、何度も甦(よみがえ)りながら描き続けられた。火の鳥を狂言回しに、永遠の生命を求め蠢(うごめ)く人間たちの葛藤(かっとう)を、過去と未来から描いた大作。そこに流れるテーマは、生命とは?死とは?人間とは?という問いかけだった。
 著者は「漫画40年」の中で「終始一貫して自分の漫画の中で描こうとしているものは"生命を大事にしよう"という主張です」と書いている。地球の生誕から終末まで、大宇宙から素粒子の世界まで描いてしまう。こうした中で描かれた火の鳥に対して、読者はともすると、人間の存在のとるに足りなさ、小ささを感じてしまう。しかし、著者は、そんな"生"を厳しく見つめ、生きることの意味、その素晴らしさを謳(うた)いあげた。それは同時に"生"を超えたところの"死"の受け入れだったのかもしれない。
 名著「マンガの描き方」の中で著者は「自分が死ぬ時になって(ああ、死とはこういうものか)という体験をする。その時が、『火の鳥』の終わる時ではないか」と書いている。「現代編」を最終話に置くはずだった火の鳥だが、死期を早めるほどの仕事の虫だった著者は、自ら精いっぱい生きたことで火の鳥を全うしたのではないだろうか。
(相)=静岡子どもの本を読む会