|
なんでもはかれるしゃくとりむしのはなし ちいさな、みどり色のしゃくとりむし。名前さえ知らない人がいるけれども、いろいろなものの長さを測ることができます。それにとても賢い。こまどりに食べられそうになったときも、しゃくとりむしは、しっぽを測ってあげることで難を逃れます。それから、しゃくとりむしは、いろいろなものの長さを測ります。フラミンゴのくび、おおはしのくちばし、さぎのあし、きじのしっぽ…… ある朝、ナイチンゲールがしゃくとりむしに難題を出します。わたしのうたをはかってごらん、と。測ることができないと、ナイチンゲールに食べられてしまいます。 しゃくとりむしは考えます。そして、いい考えが浮かびました。 ナイチンゲールはうたいます。しゃくとりむしは測っていきます。測って、測って…… しゃくとりむしは、知恵を使って危機をきりぬけます。 題からしてしゃれているなどといえば、レオニ氏は苦笑するだろうな。"inch by inch"を『ひとあしひとあし』と訳したのは谷川俊太郎氏の功績で、とにかく原題も訳名も、どちらもいい。 尺取虫が、わが命を守るために、歌声を計測するふりをして、ゆっくりゆっくり逃げのびていくところは楽しい。子どもの絵本だからむつかしい理屈をいう必要はないのかもしれないが、どうも人間の世界には、この絵本の中の取りたちのように、じぶんの価値を他人に計ってもらおうという連中が多すぎる。じぶんの思い通りにならないやつ、気にくわないやつは食っちまえという点も、この絵本の登場人物(いや、鳥たち)と「どっこいどっこい」である。 時どきレオニ氏は、絵本の中で、ちらっと説教めいた考えをだす場合があるのだが、この尺取虫の絵本には、それがない。とにかく、ひと足ひと足、逃げるところがいいんだな。(上野瞭) 絵本の本棚 すばる書房 1976 テキストファイル化田代翠 |
|