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久し振りに易しく明快で、かつ心に残る作品に出会ったような気がする。 『ホース横町の10万人クラブ』は、主人公の少女ビムと良い子になりたいと願う子供達が失敗の中から立ち直り成長していく過程を描いた物語である。 毎日一番安いトマトを、朝は砂糖、昼は塩、夕方は胡椒で食べ、その順を変えるのが唯一の変化だという、売れない作家である父親との貧しい二人暮らしのビムは、困った人は誰でも助けることをモットーとした善人ばかりのクラブT一〇万人クラブUを作っていた。会員はビムとその友達四人、それに相談役の父親のたった六人だが、今に世の全ての善人が集まるクラブになるはずだということでこう名づけられていた。そのクラブに新らたにジプシー娘ザーラが入会してまもなく、かわいそうな子犬を買い取るつもりで皆で貯めたお金の一部がクラブの金庫から紛失した。嫌疑はすぐにザーラにかけられ、ザーラをかばうビムは仲間を失い、クラブは崩壊かと思われた。ビムの心は、ザーラへの信頼と疑惑、仲間の友情への不安、引き取るべき子犬への責任と費用の心配と千々に乱れ苦しむのであった。やがてふとした事から真相が明らかになり、ザーラへの疑いは晴れ、友情は回復し、お金も戻り、子犬が手に入るのであった。 作者は、明るく勇気ある主人公を、西欧社会に今も根強く残る差別と偏見の問題に直面させ、その中で彼女が世の不条理やいつまでも子供のままでいることのむずかしさに困惑する過程を描きながら、正直であること、人を信じること、そして許すことの大切さをユーモラスなタッチで語っている。 この作品は、同じく良い子になりたいと願う子供達の集団を扱ったネズビットの『よい子連盟』に比べると事件も少なく、物語も短い。しかしそこにえぐり出された問題は深く、語られている真実は重い。難を言うならば、物語の終わり近くで、子供達が張り紙をするとお金の拾い主がすんなりと現れるが、これはあまりにもまともなハッピー・エンドで、年齢の高い読者にはやや物足りないのではないかと思われる。(南部英子)
図書新聞1980/10/20
テキストファイル化 大林えり子
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