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主人公の名「ホレイショー」は、『ハムレット』の登場人物から命名された。死んだ父も、祖父もシェイクスピアの研究者である。文中にもシェイクスピアの言葉が次々と出てくる。 ホレイショーは、自分と他の子どもとの大きな違いはパパが肺ガンで死んでしまったことにあると、事あるごとにもうその辺りにいなくなったパパを懐古するのであった。 三月前からパパのパパも、いっしょに暮らすことになった。快適なホレイショーの部屋は明け渡した。好きなカセットテープも自由にきくこともできない。老センセーの愛犬モリーまでこの家を我が物顔にしている。 そのモリーが、帰ってこない。老センセーは食事も手につかず、寝ることもできない。ホレイショーは、モリーを探しに湖に行き、水ぎわにたおれていたその姿をみつけた。リア王のようになった老センセーに従ってモリーを森までむかえにいく。毛布にくるんだ犬の死体を背中に、こんなおそろしいことはできないと思っていたのに…。みんな自然のなりゆきだろうかと、あんまりひどい現実に自問自答するのである。 モリーの死から、ホレイショーと老センセーの距離は縮まり、お互いがなくてはならない存在となる。心から義父を敬愛しているママも交えて、三人家族の絆は確かなものに。 今ホレイショーは、自分は十年の間に、ほかの子どもが一生の間自分の父親とすごすよりもっと多くの時を、パパといっしょにすごしたのかもしれないと思えてきた。パパの死も以前ほど心にのしかからず、少し軽くなった気がするのである。 友人のエリックとは少年らしい信頼と思いやりのある交流があり、機知に富んだガールフレンドとはしゃれた会話がはずむ。ホレイショーが「幸せだ」と思えるようになった過程がよくわかる。(吉田 弘子)
読書会てつぼう:発行 1996/09/19
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