|
そこは、52年ごとにこの世の存続が問われる世界。湖に浮かぶ巨大な都には、いけにえをささげる神殿、花と宝石をまとう貴族たち、そして神聖な神であり残虐な支配者である王。彼に仕えることになった辺境の貧しいきこりが、この物語の語り手だ。 予言では、この地の元の支配者である白い神がいつか帰ってくると言われていた。その時が来たら王は、白い神にその座をあけわたすのだ。 凶兆が続き、ついに白い人々が海からやってくる。滅びのときが来た。 ほとんど萩尾望都か竹宮恵子描くところの大河SFファンタジー! と言いたくなるような、華麗にして壮大な物語が展開する、『滅びの符号』(ジュマーク・ハイウォーター著、金原端人・渡邊了介共訳、福武書店・1800円)。 ただしこの物語は空想の世界の出来事ではない。1519年のメキシコにやってきた白い人々とは、野心家フェルナンド・コルテスが率いるスペイン人だ。 はじめは上品な宗教者を装っていた彼らだが、高度なアステカ文明には目もくれず、ひたすら「金」を求める野獣の姿をむきだしにする。 ひとつの世界が征服者たちによって破壊される姿が、滅ぼされる側の世界観からリアルに描かれる。ここでのリアルとは、祖先からの言い伝えや支配者の予言、夢や予兆の織りなす現実なのだ。 (芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/12/01
テキストファイル化 妹尾良子
|
|