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何やらただならぬ気配を漂わせている本。今どきめったに目にしない「百姓」ということばの力強さに、こころがときめいてしまった。『百姓天国・第一集』(地球百姓ネットワーク編・発行、富民協会発売・1000円)は、発行されるまでの経過もパワーに満ちている。 環境破壊や食品汚染など、自然と人間の関係のバランスがくずれてしまった日本の社会。このままでは大きな破局がやってくるにちがいない。それにそなえて「百姓の百姓による地球人のためのネットワーク」を作ろう、と集まった全国の「百姓有志」による一つの゛作物゛のような本なのだ。 農業や百姓をなきものにしようとするものへの現場からの反撃の本、とあるが、堅い解説調の読み物はない。 農業賛歌、女性からみた農村の嫁問題、農法の紹介、チョウやトンボの生息状況と生態系など、さまざまな人がそれぞれの立場で人間と自然について語っている。 妊娠した妻が「農薬散布をするからついて来るな」と強い口調で言われた話など、ドキッとする記事もある。会社勤めをやめて家族ぐるみで農業を始めた人たちのいろいろな試みには、人間らしい暮らしを実現することの楽しさと難しさを考えさせられる。 食べ物は外食かコンビニエンスという暮らしな慣れた私たちに、新鮮なカルチャーショックを与える一冊。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1991/03/01
テキストファイル化 妹尾良子
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