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テレビ局のディレク夕ーだったお父さんが突然死に、お葬式に、知らない人がいっぱい来たところからこの絵本は始まります。残されたお母さんはお父さんの好きだったレコードを聞いてばかり……。 けれども、お父さんの仕事場だったテレビ局を訪ねた息子たち二人は、それまで知らなかったお父さんの一面を、お父さんの同瞭や友だちたちに教えてもらいます。お父さんの働く姿を想像し、より強くお父さんの存在をかみしめる 子どもたち。 「パパは ぼくたちのたからものだよ。・・・パパには ともだちが たくさんいたね。ぼくたちもいつか パパのようになれるかな。なれるよねきっと……ねえ パパ」と結ばれたこの絵本は、 作者の末盛さんの経験に基づいて描かれたそうです。死の悲しみとつらさを、父親の職場を訪ね、父をたよりにしたり一緒に働いたりしていた人々と会い、話をすることで乗り越えていく子どもたちの姿を描いた、心に残る作品です。物語を絵の効果で描き、ぺージをめくる面白さを駆使した、いわゆる絵本のダイナミズムを表現するタイプの作品ではありませんが、お父さんの死後に起こった事柄や心に浮かんだ真実の言葉をそのま ま追いかけていくことによって、静かな感動を呼び起こす深い作品になっています。 父親の死をきっかけに、父親を良く知ることになった、この絵本の中の子どもたち。末盛さんにうかがったことはありませんが、当時八歳と六歳だった二人の息子さんたちは、きっとたくましい大人に成長されたことでしょう。 高校の時に父の忘れ物を届けに会社に行ったとき、大きなオフィスの中で部下に指示をする父の姿を廊下から見て、まるで知らない大人の男の人を見たような気がしたのを、この絵本を読み終わって、まるで昨日のことのように思い出しました。高校生の私は、親を批判的に見るようになっていたのですが、その時ばかりは、思いがけず父を「かっこいい」と思ったのです。働いている父は、いつも家 でぐうたらしている「お父さん」とは別人のようでした。三階にあがって、入り口でお父さんを呼び出してくれればいいから」といわれていたにもかかわらず、オフィスの真剣な雰囲気と活気に圧倒されて父を呼び出す事もできず、私はしぱし廊下に立っていました。 それぞれの親子関係。とても個人的な事なので一般化はできませんが、親の働く姿を見るというのは、もしかしたら子どもにとって大切な経験なのかもしれません。(米田佳代子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1995/7,8
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