パレスチナ

広河隆一

徳間書店


           
         
         
         
         
         
         
     
 上陸作戦のシミュレーション、発射されるミサイル。TVをみれば「ああ、今この地球上で戦争しているんだ」と痛感させられたのに、湾岸戦争は、徹頭徹尾〈撃たれる側〉の姿が見えない戦争だった。こんなふうにして、ひとは戦争に対して鈍感になっていくのか、なんて思っていただけに、写真集『パレスチナ』(広河隆一著、徳間書店・2500円)はずしんときた。
 まるで兵器の実験場のような中で、爆撃と銃撃にさらされている人々がいる。この本からは、その〈撃たれる側〉に身を置こうとする写真家の緊張が、びりびりと伝わってくるのだ。
 サブタイトルの「瓦礫(がれき)の中のこどもたち」から、哀れっぽく同情をそそるこどもの姿を予想すると、みごとに裏切られる。
 挑戦的な目をした彼らのはだしの後がすっくと立つ地面に、血痕がみえる。廃墟(はいきょ)を拝啓にならぶ輝くような笑顔。「瓦礫が再び瓦礫に変えられていく毎日の中で、子供たちはしたたかである。そして優しさを失わない。その子たちが、パレスチナの現在であり、未来である」と、写真家は書く。
 一枚一枚の写真がそれぞれ映画のワンカットのようにドラマチックだ。時にためいきをつくほど美しい光景に出あう。かつて宗教も民俗も越えた共生があった地への熱い思いが伝わってくる。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/06/03

テキストファイル化 妹尾良子