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鮮やかな鉛筆デッサン画で、捨てられた犬の孤独な心象を哀切に描いた名作『アンジュール』の作家の絵本三部作である。 森の中に一人の老人が立っている。屈んでまきを拾い、また立ち止まる。木の根元に腰を下ろし、切り株に登って手をかざし遠くを見る。老人の名はパプーリ。森の中で気ままに暮らしたかった。一人になって、本でも書くつもりだった。そこに、フェデリコという少年を預けられる。最初のうちは迷惑だと思っていたが、今は違う。少年の帰りが遅いと気が気でない。老人は少年を「ぼうず」と呼び、少年は老人をおっちゃんと言う。世間から疎外され、文字を覚えることさえ拒否してきた「ワル」だった少年が、老人と一緒に自然の中で暮らしているうちに、色々なことを知ったり覚えたりすることが好きになる。 二人のモノローグと短い会話だけで、この絵本は「森にくらして」から「海べで」「でっかい木」へと続く。 セピア色のペンタッチの華麗なデッサン画に、同系色の淡彩を柔らかにほどこし、人物だけをやや強めに際立たせる独特の技法は、シンプルだけれども、かえってそれだけに豊かな色彩を感じさせる。流麗な画線と巧みな場面転換とともに、計算された空間処理が、まるでワイドスクリーンの映画を見ているような錯覚に引き込む。情感溢れる見事な絵本三部作だ。(野上暁)
産経新聞 1996/09/20
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