ピーターのとおいみち

バーバラ・クーニー絵 リー・キングマン文

三木卓訳/講談社


           
         
         
         
         
         
         
    
 知り合いのキノコの専門家が、「ピーターのとおいみち」という本を紹介してくれました。「子どもの頃に読んだ本なのだけれど、絵の中のキノコが、きちんと描かれていて、同定できるんだよね。イラストの中のキノコって、たいてい、いい加減に描かれているけど、この本は違うんだ」
 見せてもらったその本は、一九七二年発行、講談社の世界の絵本シリーズの中の一冊でした。元々アメリカの本なのですから、原書 は横書きで左開きだったに違いありませんが、この日本語版は、文は縦書き右開きになっています。ピーターが歩く道がつながるように、絵を逆にして使ってあるのです。とても素敵な本なのに、なーんとなく、なー んとなくへンだなという気がします。やはり、絵を左右逆に使っているせいでしょうか……?
 さて、最近、この絵本が復刊されたということを知り、早速手にいれてみました。前の版と変わって、原書と同じ左開きの横書き、訳者も別。比べてみると、色も微妙に違います。訳文が違うのはもちろんなのですが、一ぺージ一ぺージ絵を見比べてみると、面白いことに気づきました。新版を見るまで、旧版の絵は全ぺージ左右逆 にしてあるのだろうと思っていたのですが、そうではなかったのです。ピーターが歩いて行くところなど、方向性がある所は左右逆に、ピー夕ーの動きが止まっている所では原書のまま、使っているのです。なるほど、「なーんかへン」と思った理由は、ここにあったのです。
 それにしても、一九五三年に原書が出版された本でありながら、今見ても魅力的です。「友だちがほしい」という普遍的なテーマ、ゆったりとした語り、そして何よりも、ピーターの気持ちに沿って丁寧に構成され描かれた絵が見事です。主人公のピー夕ーと一緒に歩いているような気にさせられます。キノコはもちろん、木の一本、草の一つ、そして一匹一匹の動物に至るまで、しっかりとその特徴を捉えて描いてあり、しかも図鑑や 写真を見て描いたのではなく、実際に野山を歩いてスケッチした絵だけがもつ、「空気」が、漂ってきます。
 いつも思うことですが、絵本において、話に命を吹き込むためには、絵の持つ力が本当に大きい。しかも、読者が想像力を働かせて遊べる「間」があることも大切なようです。 ぺージを繰るごとに、そのぺージにじっくりと見入ると、描かれている絵の外側まで感じられる、そんな「間」がある絵本は、何度読んでも飽きがきません。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい1997/7,8