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最近、子どもの本の復刊がブームらしい。書店で児童図書の占めるスペースが狭くなる一方で、昔なつかしい復刊本がドーンと平積みされている光景にもよくお目にかかる。 そんな中で目に留まった、復刊の、かわいい童話2冊をご紹介しよう。 まずは『ポケットの中の赤ちゃん』。 初版は1972年。わあ、ほんとになつかしい。だってこれ、あたしが編集者だったとき、担当した本だもの。 講談社児童文学新人賞を受賞して、著者自身の挿絵で翌年出版された。たしか、応募原稿にも鉛筆描きの挿絵がついていたのを覚えている。 ママのエプロンのポケットの中から出てきた小さな赤ちゃんを、なつ子はムーちゃんと名づけて、かいがいしく世話をする。くいしんぼうのムーちゃんのやんちゃぶりと、なつ子の奮闘ぶりがほほえましい。 結末のほろ苦い別れの場面も印象的っだったが、このお話は、何といっても現実生活の部分がいい。 例えば、ギンガムチェックのママのエプロン。そのポケットから出てくるくしゃくしゃの鼻紙やゼムクリップ、水道料のお知らせといった品々。大きな四角いカバーをかぶった天井の蛍光灯。仏壇にお供えするご飯。・・・・・当時の暮らしの匂いがたちのぼってくるようだ。ひとりっ子全盛で、そもそも赤ちゃんや兄弟を知らない今の子供たちが読んでも共感するだろう。 さて、もう1冊。『きかんぼの ちいちゃい いもうと』の初版は1978年だ。見覚えのある堀内誠一さんのイラストが、今見ても表情豊かで実にいい。もともとはBBCで放送されたものだが、大好評で、のちに出版されたものなのだそうだ。 50年代の英国のかなりリッチな家庭が舞台になっているとはいえ、このお話世界の豊かな包容力と暖かさには郷愁のようなものさえ感じる。 それにしても、妹のきかんぼぶりはハンパじゃない。しかし、周囲の大人たちのオトナなこと!今の時代だったらこんな子、生きにくいだろうなあ。 子供が変わったんじゃなくて、大人たちの暮らしにゆとりがなくなってしまっただけなんだ。私たちが、豊かさや快適さと引き替えに失ったものは、かなり大きなものかもしれない。 きかんぼの妹が巻き起こす数々の騒動に、笑ったり、はらはらさせられたりしながら、読後は、しみじみそんなことを考えさせられた。 いい本が世代を越えて読み継がれていくのはうれしい限り。しかしながらこの復刊ブーム、単純に喜んでばかりもいられない。子供の読者が激減して児童図書の世界そのものが元気がないから、ますます新しい創作童話が生まれにくくなっている。そんなところにも一因があるような気がするからだ。(末吉暁子) MOE2001.05 ポケットの中の赤ちゃん(宇野 和子作・絵 講談社 2000) きかんぼのちいちゃいいもうと(ドロシー・エドワーズさく 渡辺 茂男やく 堀内 誠一え 福音館書店 2001) テキストファイル化田中麻衣子 |
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