まいごの遊びば

高山栄子

河出書房新社 1996

           
         
         
         
         
         
         
     
河出書房新社の創業百十周年出版としてスタートした、少年少女読み物「ものがたりうむ」シリーズの、三田誠広、増田みず子に続く六月の新刊。七月には長野まゆみ、八月には立松和平と、毎月一冊ずつ、来年以降もラインアップが予定されている。現代作家が子どもの読み物に挑戦するという意欲的な試みなのだが、最初の二作はいずれもやや教育臭が強く、今日的な子ども文学としては必ずしも成功しているとはいえない。
三作目のこの作品は、両親が離婚して母と住んでいる十三歳の少女・菜美を主人公に、同世代の少女たちが抱える心の揺らぎを鮮やかにとらえてみせる。彼女は、同居中はほとんど顔も会わせず口もきかなかった父親と、一カ月に一度は会う約束になっている。心にわだかまりを秘めながら、父親に対して精いっぱいの娘らしさを演じようとする少女と、娘への後ろめたさからの父親のぎこちなさが、奇妙な「優しさごっこ」として、菜美の目を通して鮮やかに描き出される。学校もパスして、昼の公園で少し年上の少女と出会い、二人はそこのベンチで一日中を過ごす。父親に買ってもらった十匹の金魚が、次々と死んでいくその情景を象徴的にはめ込みながら、周囲に確かな手触りを感じられず、嘘っぽい日常からはみ出してしまった迷子たちの心の襞が、実に鮮烈に浮かび上がってきて印象的だ。(野上暁)

産経新聞 1996/07/05