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真っ黒な羽を広げて、カラスが群れて飛ぶのはそれだけでも不気味だが、枯れた木に何羽も止まってこちらを監視しているような光景などに出会うと、ちょっとドキッとする。そんな恐怖感をみごとに映像化したのがヒッチコックの「鳥」だったが、この作品もカラスの呪術的ともいえそうな特性をうまくとらえて、その怪しげな感覚を核に、都会を舞台にした不思議で不気味なファンタジーを展開して見せる。 立花透は動物園のある公園で、「満月の夜−古池で−おれたちは黒鳥になる」という、カラスの言葉を耳にする。それがきっかけとなって、透はカラスに付け狙われるが、だれもそれを本気にしてくれない。 ただ一人だけ信じてくれたおじさんは、公園の環境保護や身寄りのない老人を助けるといつわる黒鳥親切会のメンバーにカラス瓜の実を飲み込まされて、カラスに変身して死んでしまう。そのとき透も一緒にカラスにされ、黒鳥親切会に命を狙われる。しかし、カラスが人間に変身して人間社会を征服しようとするもくろみは、透の機転と動物園を抜け出した動物たちの協力で崩れ去ってしまう。 スリリングな展開で、最後までどきどきさせられるのだが、やや結末を急ぎ過ぎか。終章、この町に住んでいるのは、人間の格好をした人間ばかりじゃないんだと思わせるあたりがなかなかニクイ。(野上暁)
産経新聞97,10,14
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