万葉四季の花

入江泰吉

佼正出版社 1987


           
         
         
         
         
         
         
     
 『万葉四季の花』は、今年出た写真集のなかでとくに美しいもののひとつだろう。題名のとおり、『万葉集』にでてくる花の写真を集めたものなのだが、ため息が出そうなくらい美しい花の写真があって、そのすみに一首、その植物を読みこんだ万葉の歌がそえられている。櫁(しきみ)、三枝(さきくさ)、堅香子(かたかご)、葛(くず)、といった、あまりお目にかかれないものから、石竹花(なでしこ)、萩(はぎ)、思ひ草(りんどう)といった、よく知られているものまで様々な花が九〇ほど収められている。
 でも、これはただ花の写真に和歌をそえただけの本ではなく、どのページも入江泰吉の強い思い入れを示すかのように、写真と和歌とがみごとに響きあって、それぞれが独立した世界になっている。
 まことにあっけらかんとした桃の花の写真には大伴家持の「春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女」がそえられており、飛鳥川の川面に無造作につきだした幾枝かの山吹の花の写真には「花咲きて実は成らずとも長き日に思ほゆるかも山吹の花」という作者未詳の歌がそえられている。どちらも、ページをめくる指の力をしばらく奪ってしまうくらい魅力的だ。
 何度くりかえしながめても飽きない、本当にぜいたくな一冊。古文で習う歌とは、またちがった歌の世界がここにある。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/01/17