魔少女ビーティー・ボウ

ルース・パーク
加島葵訳 新読書社 1993

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 現代のファンタジーには、心に悩みを持つ主人公が、非現実の世界へ入りこみ、そこでの出来事を通じて現実の悩みを解決していくという型があるが、これはイギリスにもアメリカにも日本にも存在する。『魔少女ビーティー・ボウ』はオーストラリアの作品である。
 十四歳の少女アビゲールは、シドニーの高級マンションで母親と暮らしているが、父親は二年前に若い女性との不倫でマンションを出ていってしまっている。その父親が親子三人でノルウェーにいきたいと言いだし、母親も父親を受けいれたいと言う。アビゲールには、父親が、特に母親が許せない。茫然としたまま近所の公園に行くと、子どもたちがいつもの「ビーティー・ボウごっこ」(鬼ごっこのような遊び)をしていた。そこには、いつもの「ほうず頭の女の子」もいた。アビゲールが話しかけようとすると少女は逃げだし、アビゲールは少女の後を追う。気がつくとアビゲールは十九世紀のシドニーにいた。
 少女の名前はビーティー・ボウで、アビゲールはボウ家のギフトのために送りこまれたのだ。ギフトとは、アビゲールの役割とは、といったミステリー風の筋の展開は読者をとらえて離さない。十九世紀の暮らしのなかで、アビゲールはビーティーの兄のジューダに恋をして母親の気持ちが理解できるようになる。
 タイム・ファンタジーとしても、本書は「ビーティー・ボウごっこ」や襟の刺繍を使った過去への通路や、史実にそった十九世紀シドニーの人々の生活描写など優れたものである。また、ジューダの悲劇を知ったアビゲールが、『時の旅人』のように悲劇をみつめたまま終わるのではなく、ボウ家の子孫との恋の予感で終わるのも心憎い。
 『魔少女ビーティー・ボウ』は、一九八一年、オーストラリアの「年間子どもの本賞」を受賞。著者のルース・パークはオーストラリアを代表する作家の一人で、わが国では『監獄島の少年』が翻訳されている。(森恵子)
図書新聞 1993年7月24日