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最初にこの作家の本を見たのはフランクフルトで毎年十月に行われる国際図書展の会揚でした。子ネズミの女の子がバレーの練習をして舞台に立つ「アンジェリーナ」のシリーズ (大日本絵画)です。イギリスの出版社の人に話を聞くと、もう日本で翻訳が出ているとか。日本に帰ってから書店で本を探して手にいれました。 ネズミの姿はしていますが、生き生きとした女の子を描いたこの作品にはファンも多いようですが、最大の魅 力はへレン・クレイグの手による細密なイラストレーションでしょう。 ハレーの衣装や背景が丹念に書き込まれ、見飽きることがありません。さて、今日ご紹介するのは、同じ画家によろ「町のねずみといなかの ねずみ」です。元のィソップのお話は「びくびくしながらぜいたくするより質素に暮らしてのんびりしたほうがいいのだ」という教訓をふくんでいます。町のネズミには厳しく、田舎のネズミの肩は持つ、というお話なのですが、それをクレイグは、「それぞれにいいと思う所に住むのが最も幸せなのだ」というふうに、さらりと気持ちよくまとめています。ラストではシルクハットに蝶ネ ク夕イでおしゃれをして劇場に向かう町のネズミの姿と、丘の上にねそべって、空にかがやく星をかぞえる田舎のネズミの姿を見開きで描き、それぞれネオンもまぶしい都会と、星空と満月の田舎の風景を見せ、読後に満足感を与えてくれます。 草花が咲き乱れるなか、木の実を食べる質素な田舎の情景も、着飾って映画を見に行ったり宴会の残り物をいただく都会の生活も、ていねいで柔らかいぺンと水彩の夕ッチで魅力的に描かれています。 クレイグの作品にはめず らしくコマ割を用いていますが、良く知られた物語に新しい命を吹き込む為に考えた手法なのでしょうか、物語の流れが効果的に作られ、作品のテンポを生み出しているような気がします。 「きいろい家」「マリーマリー」 (共にセーラー出版)「アレキサンダーとりゅう」(福武書店)などの作品が日本で出版されていますが、どの作品にも共通しているのは明るく前向きで、どこかのんびりしている所。細かく描き込む夕イプの絵は、時として息苦しさや圧迫感を与えがちなのですが、彼女の作品はあくまでさらりとのびやかです。細いぺンの夕ッチが多少弱さを感じさせるきらいはありますが、表現力のある表情豊かな絵には、独特の魅力があります。(米田佳代子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1995/1,2
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