もりのキャンプ

ロザモンド・ドーア一作/バイロン・ハートン絵

掛川恭子訳 講談社

           
         
         
         
         
         
         
    
 森にキャンプに行って、小さなへビと知り合った二匹のカエル。へビ自身が「かまないからあぶなくない」と受け合ったので、仲良くしたいとは思うのですが、いっしょの寝袋で寝るのはやっぱりいや。帰り際、ついてきたそうなへ ピ。カエルたちも、連れて帰りたい気はするのだけれど…?
  「もりのキャンプ」 は、「友だちになる」ことの微妙さを、やさしい文とユーモラスな絵で描いた幼年童話。絵の中のカエルたちは大きくて強そう ですが、もともとはへビとカエルは天敵同士。カエルの頭には「食われるかもしれない」ということがひっかかっているようです。大人の目から見ると、子ども同士はすぐに仲良くなるように思えますが、実は子どもの友情は、「食ってしまおうか」「食われるかもしれない」という、大人よりよほど真剣な頼ぶみを経て始まるものなのです。
 「ねこと友だち」 (いとうひろし作) の主 人公は、友情なんかとは無縁の暮しをしてきたハードボイルド (?) なねこ。ふとしたことから金魚ばちの魚と仲良くなりますが、じきに「こいつを食いたい」という欲求に直面することになります。
 いつも食べている「死んだ魚」と、初めての友だちとが、同じものだったなんて……。 「魚のいない国」を目指して旅に出たねこですが、結局海辺で「さっきまで生きていた魚」 のおいしさを知ってしまいます。そして、そのおいしさが自分を元気にしてくれるということ。食べることは、相手を滅ぼすことでありながら、同時に相手と一つになることでもあったのです。
 友だちと再会したねこは言います。ここにいたら、ぼくは食っちゃうかもしれないよ」魚は答えます。「だいじょうぶ、あたしはそう簡単には食べられませ んよ」きっとその言葉のとおり、ねこは他に食べるものがなくなれぱ、真剣に友だちを食べようとするでしょうし、魚の方も、やはり真剣に、生き延びようと戦うでしょう。
 でも互いにそう宣言したことが、かえってねこと魚の間に深いきずなを生んだのです。「食うか食われるか」という暗黙の綱引きから始まる友情が、固いきずなに変わるのは、互いに相手を「自分に対して手抜きをしないで向かってくるやつ」と、認めたときかもしれない。そんなことを考えさせてくれた本です。(上村令
徳間書店 子どもの本だより「児童文学この一冊」1995/1,2