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今や日本はコミックの分野でも輸出大国らしいけど、よその国のものを目にする機会は少ない。で、アート・スピーゲルマン『マウス』(小野耕世訳、晶文社)には、ちょっと新鮮な感じをうけた。 ポーランドでナチによる虐殺時代を生き延びたユダヤ人の記録、というテーマもだけど、なんというか手法が純文学ぽい。数年来ニューヨークを舞台にした少しおしゃれな小説がはやりだけど、そのノリがある。ヨーロッパを中心にに十二カ国語版が出ているというのも、うなずける。 プロローグはこんなふう。ローラースケートで遊んでいて友だちから置き去りにされベソをかく少年に、日曜大工の手を止めて父がいう。 「友だちだと?/友だち同士を部屋にとじこめ一週間たべものがなかったとしたら・・・/そしたら、友だちとはなにかおまえにもわかるさ」 こんなシニカルなタッチで、成人してマンガ家になった息子が父親から戦争時代の体験を聞き、それを描いてゆくという二重構造のストーリーが展開する。 ユダヤ人はネズミ、ポーランド人はブタ、ドイツ人はネコ。人間が動物に見立てられる表現は、コミックならでは。ポーランド人のふりをして国境を越えようとする場面ではブタのお面をつけるという具合で、ある種ブラックな笑いを呼ぶ。こんな重厚なコミックも、いい。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/08/25
テキストファイル化 妹尾良子
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